鍛えても鍛えても越えられない壁~五感を奪う危険な現場~

救急隊は医者や看護師以上に使える医療道具が少ないです。

特に体の内部を知るための道具。
レントゲンとかエコーとか血液検査とかそういう道具がありません。

救急の現場では、 「経験」「匂い」「見た目」「音」「感触」などが重要になってくるのです。

「あ、ヤバそう」という印象、直観。
アルコールの匂いがするな。これは失禁しているな、とかの匂い。
冷や汗、顔色悪い、とかの見た目。
聴診器を使って聴く音。
触ってみて固いとか変形しているとかの感覚。

例えば夏、誰にも気付かれず孤独死した現場。
匂いがとてつもないです。
日常生活ではまず遭遇しない臭いが充満してました。

とは言え、 通報の内容から臭いがあることは想像していた通りです。
臭いにも程度がありますが、ある程度は慣れの部分もあります。

今回は同僚のお話。
臭いとプラスアルファの要因で、まさか同僚の目と鼻が全く効かなくなるなんて思いもしませんでした。

五感を奪う環境は夏だけではありません。
今回はある夜、冬の夜。腹痛との通報で救急出場したときのお話。

傷病者の家に入った。古い木造の戸建て。
中は散らかっているというか…
動物園のようになっている。

犬たくさん。
猫たくさん。
あとハムスターが少々。

部屋の中でゴチャゴチャと、縦横無尽に動物が走り回っています。

傷病者が犬を抱えて部屋の中で座っている。
もの凄く吠えるチワワ抱いて座っている。
愛玩犬というよりは戦闘用に鍛えられたド―ベルマンの迫力です。

何とかチワワをゲージに入れさせて救急車に乗せると、同僚に異変が起きました。

グシュン。ズー。

グシュン。グシュン。

ズー。

と変な音が出ている。

隣の同僚を見ると、くしゃみと鼻水の堤防が決壊していました。

グシュン。グシュン。

グシュン。グシュン。

そう。動物の糞や毛のアレルギーが発症したのでした。

グシュン。ズー。

こうなると、くしゃみで会話もできません。

涙でよく見えない。
鼻水で匂いもわからない。

グシュン。グシュン。

今回は腹痛だけですぐに病院が決まりましたが、
部屋の中で処置をすることもあれば、
車内で問診や観察をして病院を決める症状もあります。

もしそうなっていたら…恐ろしい。

元々アレルギー体質ではありましたが、
あのレベルの環境だと物凄いアレルギー反応になるようです。
帰ってきて入念に車の中を清掃したけど、しばらくは辛そうでした。

ペットは家族という人の気持ちはわかる。
けど、少なくとも飼育環境を整えてあげないといろんな弊害がでるんだなあ…
と思った現場でした。

その後、同僚は次の日すぐにアレルギー検査に行きました。
同僚よ、無事を祈る。