高速道路でのバイク転倒事故~傷病者が失った大切なもの~

悲惨な現場は色々経験しましたが、
今回は交通事故の話。

とある高速道路の分岐で事故が起こりました。

400ccバイクの転倒事故。
事故現場近くに着くと大破したバイクが見えました。
破損した車体の状況から推定すると、時速はおよそ100㎞/h。

バイク便でしょうか。
荷台のキャリーボックスから書類が飛び出し散乱しています。
徐々に近づいて状況を確認しますが、
書類はあれどバイクの運転手は見当たりません。

救急車のスピードを落として周囲を探すと、大破したバイクから30メートルほど先に傷病者が倒れていました。
プロテクターをしていてもバイクの事故は悲惨です。

そりゃそうです。
申し訳程度のプロテクターは付けているものの、車と違い身体がむき出しで高速移動しているのです。

その状態で事故が起きれば当然、人間は吹っ飛んでいきます。

傷病者に声をかけたところ意識はありました。
事故を起こした直後のため痛みはそれほど訴えていません。

事故直後はアドレナリンやエンドルフィンが分泌されているため、意外と元気な傷病者も多いのです。
ただ、救急車に乗るまでは自力で動けていたものの、病院に到着して気持ちが落ち着いてきた頃には動けなくなっている…。
そんなことも良くあるのです。

さて、今回の傷病者ですが、

なんと…

左腕がありませんでした。

恐らく左に転倒してバイクと道路の間に左腕が挟まったのでしょう。
そのまま滑って取れてしまった可能性が…。

ベテランの救急隊が止血処置、頸椎保護、などをしていきます。
私も保持や道具の準備をしていきます。

その時、ふと私の目に入ったのが、赤茶色のボストンバックです。

傷病者の20メートルほど先に細長いボストンバッグが見えました。

目を凝らすと不自然な形をしています。

高速道路にボストンバッグ?

形状も細長いし…

えーと、、

傷病者の左腕がないし…

あれもしかして、

腕じゃね?

「た、隊長。あの、奥に腕がありました。」

隊長の耳もとで報告すると、

「高速道路だから離れるな!車にハネられるぞ!」

はい。一喝されました。

高速道路での救急は安全な活動範囲を作らないと活動出来ません。
数メートル横で100キロ以上で車が走っているのです(普通に怖い)。
一歩間違えれば自分たちが車に轢かれます(マジで怖い)。
安全な活動範囲を他の消防隊員や救助隊員、警察官に作ってもらわなければ要救助者に近付けません。

今回発見した腕のようなものは活動範囲外にあるもの。
むやみに取りに行くのは超危険。
私が30メートル吹っ飛ばされてしまいます。

そこで、消防隊の人が活動範囲を拡げてくれました。
当たり前ですが、活動範囲外だからと言ってみて見ぬふりは出来ません。

車両を移動し、三角コーンを使用して
安全を確認して対象物に近付きます。

あぁ、やっぱり。

腕だ。

左腕だ。

本体から切り離された腕を拾い上げます。

あれ?単品の腕ってどうやって持つんだろう?

片手で持ってブランブランさせるわけにはいかないけど、大事な手とはいえ恋人繋ぎするわけにもいかず。

結果、両手で大事に抱えて救急車に戻りました。

真横を車が通る恐怖感と腕を抱える状況はまさに吊り橋効果。

ドキドキしながら直ぐに現場を離れ、病院へ向かいました。

いまでも
赤茶色のボストンバッグとか抱えるとき、
一瞬思い出します。
あの現場とドキドキを。